名前からして不穏すぎる小説『殺した夫が帰ってきました』を読んだんですが、想像してた展開とは全く違う展開すぎて錯乱状態になりました。
殺したと思ったら夫が帰ってきた・・・しかし彼には記憶がない。夫は殺されかけたことを「覚えている」のか、それとも「忘れている」のか。怒涛の展開があなたを襲う─
って感じの話かと思ったら全然違いました。
「誰が誰やねん状態」になってしまい、悲しみと驚きと安堵感という、訳のわからないトリプル・デスマッチ。錯乱状態でした。
ミステリー作品として、かなりおもしろかったです。
「殺した夫が帰ってきました」感想
そんな夫、帰ってきたらもう一回殺してしまえ ──
声が出ました。読み始めてすぐにそう言いました。本に向かって言いました。本を読んでいると時々「ひとりごと」が出てしまう時がありましたが・・・
もうはっきりと声に出てましたね、今回は。
もうタイトルからしてそうなんですが、最初からずっと気に入らない感じの雰囲気が漂ってる小説じゃないですか。
もう明らかに「甘酸っぱい恋」とか「世界の中心で叫びたくなるぐらいの愛」とか出てくる感じじゃない。
「昼ドラぐらいの醜さ」とか「血管詰まるくらいドロドロな憎しみ」とか、そういう雰囲気しかないじゃないですか、『殺した夫が帰ってきました』って。
そしたら案の定・・・
まともに仕事もせず、気に入らないことがあればDVする最低すぎる夫。偶然を装ってストーカーしようとしてくる気持ち悪すぎるオッサン。子供のことを愛さず「役立たず」「産まなきゃよかった」と暴言を吐いちゃう毒親。
ここはクズの日本代表を決める予選会場ですか?
こんなクズばかりだと、とにかく読むのがしんどいし、そもそも読む気も失せる。可哀想で読んでられないわけですよ。
特にDVしてた夫。
そもそもですけど。自分より弱い相手を傷つけるとか最低ですからね。いや、軽い気持ちで言っている訳ではなく。
もうシンプルに、ダメだろ。
自分よりデカくて筋肉もあるやつから「気に入らないから」って言われて殴られたら嫌でしょ?それをしているんですよ、お前は。
そしてサラッと出てきてキレそうになったのが、
【突発的にお金が必要になって自分の友人に茉菜を一晩売った】
って…こういうの止めませんか。本当にキツい、やめてくれ、こういうの。
買う方も買う方だし。そもそもそんなやつ、友人でもなんでもないだろ。友人なら殴って止めたれよ。
本当に読んでいる読者がみんな思っていたはずです。
もうそんな夫、マジでもう一回殺してしまえ。
と。読んでいてイライラが止まらなくなり、本をぶん投げようかと思ったぐらいなんですが・・・
そんな荒ずんだ心に、ようやく出てきた優しさ。ああ、辛すぎる砂漠に出てきたオアシス。
親切にしてくれた松木さん、友人の寧々ちゃん。大切にしてくれた匡人くん。
さあ、お水だよ。やっとカラカラの喉を潤せるよ。やっと茉菜の幸せな部分が見れるのよ。
やはりミステリーは好きですが、幸せになるミステリーが読みたい。
甘酸っぱい恋も感じたいし、世界の中心で叫びたいですよ、愛と。
と思いきや数ページ後には「義兄に無理やり抱かれた」とか、「友達がDVされて流産した」とか。
いやいや本戦か?クズの日本代表を決める本戦が始まったんですか?
さっきのオアシスは嘘だったんですか?あれは「お水」じゃなくて、でっかい焼酎「大五郎」だったんですか?酔っ払ってただけなのか、俺は。
さすがにそれ以上読みたくなくなり、本を閉じてふて寝しました。
まあでも気になるので続きを読みますよね。
そしたら一通の電話が。ここからまさかの超急展開で寝不足確定。
「夫死んでたんかい」からの「じゃあお前別人かい」のターンへ。
夫だと思っていた人物の正体は、和田佑馬。そんな佑馬に連れて行かれた先で松木さんとの再会。
オアシスも霞むほどの真実を顔面からぶつけられて、気絶しそうになりました。
そして茉菜は寧々で、茉菜は愛だった。
この展開、読めた人いたんでしょうか?想像してた展開とは全く違うどんでん返し。
ちゃぶ台を思いっきりひっくり返されて天井に突き刺さったぐらいの衝撃です。
「運動会で自分の子供だと思って撮影してたら、全然他人の子供でした」っていうウチの親父みたいな衝撃です。
結局、夫も別人だったし、妻の方も別人だったと。これが世に言う「誰が誰やねん状態」です。
ただ、自分としては「ちょっとホッとした」ところもあったんですよね。
いや、もちろん愛も茉菜も辛い思いをしたのは変わらないんですが…それでもDVをしていた夫はちゃんと死んでいた訳ですし、和田佑馬も悪い奴ではなかったですし。
辛いことがあったけど、何より愛が前を向けて新しい人生を歩けるようになったこと。これが一番です。
やっぱりドロドロしたミステリーも好きですが、美しいものを見たいですよね、結局。
ただ結末として。最後のシーンで愛は警察署に向かった訳ですよね。
話の流れで愛は罪を償うために警察署に向かったようですが…
彼女の罪状って何なんでしょうか?
殺人に関与していたのは茉菜だった訳で愛は関係ない、はず。茉菜が死んでしまった理由も大地震による災害。愛の責任とは言えないはずです。
仮に愛が関わっていたことが明らかになったとしても、それは罪人として裁くことではないですよね?
愛の言葉を信じるとすれば、茉菜が死んでしまったのは事故だった。そうなると、彼女の行動で罪になりそうなこととしたら…「別の人間になりすましていた」ことでしょうか?
普通に考えたら、茉菜が亡くなった時点で役所になり、警察になり「届け出」をしなくちゃいけなかった。でもしなかった。それが罪状になりそうでしょうか?
個人的には「きっと大きな罪にはならないんじゃないか」と思うわけです。法律関係には全く知識がないのでなんとも言えませんが・・・
ただゲーム「逆転裁判」は全クリしたことありますからね。これはもうほぼ弁護士ですから、私。
ただし、大きな罪にはならないにしても「逮捕」と言うことになれば、仕事はクビになるでしょう。今後の人生で不利になることは間違いないはずです。
しかし、最後に愛に対して発した和田佑馬の一言は「愛のことを待っている」ってことだと思います。
「前世で何したんじゃお前は」ってぐらい辛い人生を歩まされてきた愛。これから先幸せになってくれないと、帳尻合いませんから。
彼女が幸せになることを心からお祈りしています。
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