『イニシエーションラブ』を読んだのですが、ストーリーの意味を理解したとき、窓から本をぶん投げようかと思いました。
ところどころ引っかかっていた違和感がラスト2行で大爆発。全ての意味を理解したあとに出てきた言葉はこれでした。
マジであの純情な気持ちを返してほしい。
「どんでん返し おすすめ」なんて検索すると必ず出てくる作品『イニシエーションラブ』ですが、
完全に納得です。
『イニシエーションラブ』のレビュー感想
大切なことなのでもう一度言います。
本当にあの気持ちを返してほしい。
「たっくんとマユちゃんが幸せにならないんだったら、俺はこの本を窓からぶん投げよう」と思ったぐらい二人を応援していたのに。
2人の行く末が気になりすぎて、仮病を使って会社のトイレに閉じこもって読んだのに。
違う意味で本をぶん投げたくなりました。
読み出して最初の方は「恋愛っていいな」と本気で感じていたんです。経験したことある人ならわかる、あの恋愛の甘酸っぱさ。
若者たちによるひと夏の恋。内緒で連絡先を交換しあい、デートして、嫉妬して・・・
たっくんのマユちゃんへの想い。マユちゃんのたっくんへのアンサー。
「今すぐ会いたい」「…来て。部屋に来て。」
乾くるみ イニシエーションラブ
私は思いました。
この世で信じることができるのは「愛」だけだ、と。
この2人が幸せになれないなら、愛なんていらない。人は気持ちなんて持たなくていい。
全員アンドロイドとなって死ぬまで働け。そこまで考えたほどです。
それと同時に「あんな初々しい恋愛はもうできないんだろうな」という寂しさや羨ましさを感じ、
少し体調を崩しました。 あやうく早退するところでした。
ところで、あなたは読み終わった瞬間に理解できましたか?
この小説のどんでん返しを。
多分この小説を読み終わってすぐに理解できる人ってほとんどいないはずです。
ちなみに私はこんな感じで理解するまでに色々遠回りしました。
辰也?これはたっくんではない?でもご両親に鈴木って呼ばれているし…たっくんは二重人格だったのか?
↓
いや!でもそれだとおかしなところも多いな…あれ?そういえば海藤(会社の同期)の下の名前って「辰也」とかだった?
↓
いや!でもマユちゃんとの思い出話を話しているし、おかしいな。もしかして海藤はマユちゃんと隠れて付き合ってた?
というように、海藤に対してイライラ。
おい海藤。そうやって人の彼女に手を出すって最低の行為ですよ。いやわかるよ、マユちゃんは可愛いもんね?でもだからってお前が手を出していい訳ないだろ。可愛いからこそマユちゃんの友達を紹介してもらえよ。可愛い子の友達は大抵可愛いんだよ。いや、そうじゃない場合もあるよ。でも会ってみないとわからないだろ、って話戻すけどマユちゃんに手を出してんじゃないよ。
って思ってたけど、読み返して見ると海藤の下の名前は出てこず辰也は彼ではないという結果に。
本当にごめんなさい。
ということはやはり、この辰也はA面のたっくんとは別人だと気づきます。
そしてふと、これズレている展開なのでは?と考えました。
つまり小説の時系列はB面→A面に進んでいて、B面はマユちゃんの過去の話なのではないかと。
すると一気に切なさが込み上げてくるんです。
A面の真っ直ぐなたっくんに対し、実はマユちゃんが元カレ(B面のたっくん)を忘れられなくて、元カレと同じあだ名をつけたのかと。
ああああ、そりゃないよ、マユちゃん…
だって夕樹(ゆうき)という名前の人に「たっくん」ってあだ名は無いでしょう。
『夕方の夕って、カタカナのタと同じに見えるからたっくんってどう?』じゃないんですよ。どんな感性だよ。文字の形であだ名を決めるって天才肌かよ。
本気でその感性なら歯科衛生士を辞めて芸術関係に進んだ方がいい。
ちなみにB面のたっくんに関してはイライラしっぱなし。怒りのメーター振り切ってました。
酒を飲んで暴れ出す低俗さも。自分の言葉には責任を持つだのごちゃごちゃ言うくせにしっかり浮気して二股かけていたところも。何より女性に手を上げることも。そして、そんなやつに彼女いると知ってても色目使ってくる女も。
もうマユちゃんが可哀想すぎて。天使のようなマユちゃん。かわいそうに。
そしたらA面とB面は「同時進行だった」というオチ。マユちゃんもしっかり二股してました。
しかも呼び方を間違えないように2人とも「たっくん」と呼ぶ徹底ぶり。悪魔かな?
どこなの?心から応援してたあのかわいいマユちゃんはどこに行っちゃったの?Where is Angel MAYU?
結果的にお互い二股していたという救いようない2人。
それでもこのタイトルにある「イニシエーションラブ」は確かにあると自分は思っています。
イニシエーションラブを乗り越えて成長した人は世の中にたくさんいるし、こういう経験があるからこそ本当の愛を見つけられる人になれます。
だからこそ2人のたっくんの終わり方が印象的でした。そしてそれに対するマユちゃんも。
最終的にはA面のたっくんは幸せの絶頂で終わってるんですよね。
そしてB面のたっくんはマユちゃんに対して少し未練があるように終わってます。
やはり、信じれるものは「愛」なんだ。「愛」勝るものはない、そう思いたい。
考えたくない考察
ここからは憶測なんですが…
マユちゃんはどうにでも動ける女の子だと思うんですよ。
もしB面のたっくんが『マユ、ごめん。やり直そう』と言ったらやり直すし、その時はA面のたっくんを簡単に捨てる気すらするのです。で、それが無ければA面のたっくんととりあえず幸せになろうとすると思うんですよ。
ただ、このA面とB面を読んで素直に考えてしまったのは・・・
マユちゃん、実は他にも別の「たっくん」とかいない?
全然ありえますからね。
「たっくん」と呼ばれる立川くんとか、田んぼを所有してるからって「たっくん」と呼ばれてる男とか・・・
マユちゃんの場合ありえますよ。
そういう意味では、この小説はモテない男に読ましちゃいけない小説。これ以上少子化にさせるわけにはいかん。
ただ、それも考えすぎかもしれません。
マユちゃんはB面のたっくんにルビーの指輪を返してるんです。
ということはもうB面のたっくんのことは完璧に振り切った、ということでいいんですよね?
マユちゃんはA面のたっくんと幸せに暮らしていくと決めた、ということでいいんですよね?
本当に?信じていいの?やばい、人間不信になってる。
愛を信じれなくなってる。
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