『あ、そういうタイプの話?』
と声が出たランキング、でいうとなかなかの上位に食い込んでくるであろう小説『屍人荘の殺人』。タイトルから本格ミステリーと思いきや、まさかバイオがハザードになっているなんて思いもよりませんでした。
内容的にはかなり「実写向け」。実際に神木隆之介、浜辺美波、中村倫也という人気キャストで映画化もされた話題の一冊でした。
世間的にも評価的にもかなり注目された作品だったんです…が。
正直言って入り込めなかったですね。退屈でした。
閉ざされた空間で発生する連続殺人とミステリ要素はしっかり盛り込まれていましたが・・・いかんせん相性が悪すぎる。
文字では迫力が伝わりにくく、その温度差で感情移入が全然できませんでした。
『屍人荘の殺人』レビュー感想:ネタバレあり
小説のタイトルや表紙イラストに1ミリたりともゾンビ感を出さないのが良かったですよね。最初から「ゾンビの話」と知っているか知らないかでは、行って帰ってくるほど違います。
でもその1点だけだったようにも思います。
正直この『え、まさかのゾンビもの?!』の衝撃がまあまあ強すぎて、トリックとか犯人とかちょっとどうでも良くなっちゃったのが残念でした。
まずは話の導入部分・・・
大学のミステリ愛好会。見知らぬ者からの脅迫。そして、謎の美少女。
小説の舞台は、夏の山荘というクローズドサークル…
複雑な作りの建物。凶器となりえそうな数々の武器…これは何かが起こりそうな予感がぷんぷんです。
いいじゃないですか、この展開。王道にしてベスト。ザ・推理小説という感じで楽しめそうじゃないですか。
ここまで話題になっている作品だ。舞台が王道なのであればきっとトリックがヤバいものなんだろう。これはどんでん返しがすごすぎて笑っちゃう感じなのかな?楽しみだぞ・・・
なんて言ってたらゾンビですよ。
いや、それアリですか?大学生がクローズドサークルでゾンビに襲われちゃうんですか?いや、いきなり主人公の人食べられちゃってるじゃないですか?マジですか?誰がロケットランチャー撃つんですか?
ミラ・ジョヴォヴィッチのセクシーな目つきを思い出したのは言うまでもありません。
新感覚「ゾンビ×ミステリ」
この小説、ゾンビ出てきちゃうんです。ゾンビ×ミステリ。
まあミステリー小説だからってゾンビが出てきちゃダメってことはもちろんないんですけど、全く情報を入れずに読み始めたので、さすがにびっくりしました。
しかも探偵役がいきなり食べられてしまうという怒涛の展開。『最終的になんだかんだ生きてるんでしょ?』とか思ったらちゃんとゾンビになっちゃってるし。
これには賛否両論ありそうだな…と思って他の方のレビューを読んでみると、やはり。
本格ミステリだと思って読み始めたらいきなりのゾンビで興醒めした方もいるようです。
自分はというと・・・どちらかといえば「否」ですね。
新しいタイプの作品はどんな物でもワクワクしますし、ゾンビものも好きで、バイオハザードをプレイしたことだってあるし。
ゾンビがたくさん出てくる「Days Gone」というゲームではハマりすぎてしまい、寝るの忘れて自分がゾンビみたくなってましたし。
ただやはり。読み始めた時は「定番ミステリを読むぞマインド」になってしまっているで、ゾンビが出てきた時は残念に感じましたね。
しかしミステリーとして微妙だったとかはありませんでした。むしろすごいと思いました。
さすが「鮎川哲也賞受賞作」。
ゾンビがただのストーリーのパーツなのではなく「ゾンビとしての意味があるトリック」が散りばめられていたのはスゴイ。
殺したのはゾンビか人間か?というトリックも「噛まれた人間は時間が経つとゾンビ化してしまう」の特徴をふまえて練られていたのがさすがですね。
わかった時は「ほう、なるほどね…」と言葉にはしてないけど、そういう顔をしました。
小説とゾンビは相性が良くない
ただやはり・・・
小説とゾンビは相性が良くない。
最後の最後まで感情移入ができず、気持ちも乗り切れず。なんとなくで読み終わりました。
これは結局のところ。文字よりも実写の方が迫力あるということを知ってしまっているからですかね。
映像作品、ドラマや映画でゾンビ作品を見すぎてせいだと思います。「ゾンビが階段を登ってきた」と文字で見るより、映像でゾンビが階段を登ってくる方が怖いですから。
例えば最初にゾンビが紫湛荘(屍人荘)に迫ってきた際、ゾンビを槍で追い返そうとしたシーンで・・・
槍を引き抜いては二度、三度と突き立てるがなかなか果てない。重元が再び叫んだ。
「心臓を潰しても無駄です。脳を破壊しなきゃ。」
「そんなもんどうやるんだよォッ」
今村昌弘 「屍人荘の殺人」
いや。もちろんわかりますよ。
このシーンがとても緊迫しているのはわかりますよ。頭に映像も浮かびます。ああ、こんな感じだろうな、と。
ただやはり文字だと厳しい。ちっちゃい「ォ」とか「ッ」とか出てきましたけど…ねぇ。
どうしても映像の方が迫力は伝わるし。こういったパニックのシーンでは、しゃべっている人の周りにいる他の人の表情とか様子が重要だったりしますし。
さらに「重元が再び叫んだ」と書いてありましたが、セリフの文字が、
『脳を破壊しなきゃ。』
って。なにそれ。
そんな『そろそろ寝なきゃ。』みたいな言い方されてもね。こういうところで気になっちゃう人には厳しいと思います。
せめて『脳を破壊しなきゃァ!!』でしょう、叫んだなら。
そんな点もあって、ゾンビを主体としたこの小説に最後まで乗り切れず残念でした。
ということで皆さん、最後まで読んできださり
ありがとうございましたぁァ!!
小説カテゴリーの人気記事はこちら
感想『殺した夫が帰ってきました』予想できないラストで錯乱状態|ネタバレあり
あなたに教えたい。「警部補 姫川玲子シリーズ」おもしろい理由3選