やけに印象深い話なのに、全然ストーリーに乗っていけなかった小説『アルキメデスは手を汚さない』の読書感想文です。
1973年発刊という50年以上前のミステリー小説。
ガリレオシリーズなどで有名な東野圭吾さんが作家を志すきっかけになった作品だそうです。
そんなこと言われたらなんとなく読むしかないな、と本腰入れて読みましたが…かなり読みにくさを感じました。っていうか・・・
刑事が無能すぎてキレそうになりました。
『アルキメデスは手を汚さない』レビュー・感想
「アルキメデス」という不可解な言葉だけを残して、女子高生・美雪は絶命。
なんて定番でいて完璧な出だし。
もうこれだけでミステリーファンとしては食いつくしかない出だしです。何のことか全然知りませんが、なんとなくスゴそう感の強い「アルキメデス」という単語。
と思いきやそんなことは気にならなくなるぐらい本が「読みづらい」。
その理由はズバリ「ストーリーの時代背景」です。
話の舞台が1970年代。そこに生きる学生たちを描いた作品で、当たり前ながら今とはかなり違う感覚や言葉遣いに引っかかってしまいました。その度に切れる集中力。
まあ発刊されたのが1973年ってことなので仕方ないんですが、やはりしんどさはありました。
内容もダークな要素強めで…いわゆる「嫌な話」ですからね。高校生の死、レイプ、不倫、自殺など・・まあミステリー小説の定番といえば定番なんですが、やはり気は滅入る。
子供が死んでしまった父親と、その父親に恨みがある学生。
もっと言えば「子供扱いしている大人」と「大人は汚いものだと思っている子供」の図式。
この小説は、読む人の立場とか状況、年齢とかによっても作品に対する感想が完全に変わる気がします。
私は残園ながら大人になってしまいましたし、明日への希望なんてレモンサワー飲まないと見えてこないタイプの大人ですから。そんな大人からすると、この小説の子供たちに対しは、
『生意気すぎるだろ』『どんな理屈だよ、それ』
という感情しか出ませんでした。いやに達観しているというか、いわゆる「大人をわかった気になっている子供」という印象しかないです。
これは70年代っていう時代柄なんでしょうかね?それとも若いうちはみんなこうなのでしょうか?社会に出る前の子供たちというのはみんな大人のような振る舞いをしているでしょうか?
私が高校生の時なんて学校で「超真剣な鬼ごっこ」をして青春の汗をかいていましたし、将来の夢は「海賊王」でしたけどね。
ちなみに、この『アルキメデスは手を下さない』に出てきた学生で一番腹が立ったのは、母親の作った弁当に対し、『あんなの冷凍食品詰め込んだだけで愛情なんてない』と言いきったバカな高校生ですね。
「毎日自分で作ってから言え」と、そういうことは。
って思ってたんですが大人になってもそういうヤツ、いました。自分は外野から文句だけ言うおじさん。自分はいつも就業時間ギリギリで出社するのに、たまたまオフィスの鍵開け当番が電車の遅延で遅れただけで…
『鍵の管理者として責任もった行動とってくれますか?』
・・・なんなんですかね、こういうヤツは。しかも朝礼で。みんなの代弁者みたいな顔して。
こいつに対してはアルキメデスに手を下してほしい、ホント。
ただ、この小説のイライラポイントはここだけに収まらず。事件を捜査をしていた刑事も頼りなさすぎてイライラしましたね。
とにかく無能。あの温厚な杉下右京さんでも、紅茶ぶん投げてキレるレベルの無能でした。
大塚君、これはひょっとしたら大ミスをやらかしたらしいぞ
(中略)
こいつは振出しへ逆戻りだぞ!
小峰元 著「アルキメデスは手を汚さない」講談社文庫
これベテラン刑事が他の刑事とやりとりするシーンなんですけど、序盤ではなくまさかの物語が90%終わった後のセリフですからね。しかも凡ミスで。
これで本当に振り出しに戻ってたら、読者全員本をぶん投げてる。右京さんも『恥を知りなさいっ!』とか言っちゃってる、きっと。
結局のところ、この小説に乗り切れなかったのは・・
「小説のどのキャラクターにも共感できなかった」
「どの登場人物にも自分に置き換えて考えられなかった」
ってことかもしれません。読んでいてイライラが募り、話にも集中できず、終盤に来て刑事の凡ミス・・・でも「つまらない」とかではなく、シンプルに「向いてなかった」だけだと思います。
多分この小説の良さってもうちょっと奥です。深いところにあります。
アルキメデスの偉業、70年代の学生の価値観、子供から見た大人の印象。
この辺が理解できて…というか理解しようとするかどうかで面白さが変わる気がします。
この70年代の学生の考え方や時代背景が理解できる「当時の高校生」だった人には熱くなれる小説だったでしょうね。
ということで往年の水谷豊ファンの方々、出番です。
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