『美濃牛』を読んだのですが、おもしろいくせに全然ハラハラしなくて「火曜サスペンス劇場」を見てるのかと思いました。
デンデンデーンー デンデンデェーーン
で、お馴染みの火曜サスペンス劇場。知っている人は確実に30代以上でしょう。知らない人のために説明すると・・・
毎週火曜日に「なんとなく人が殺され」、それを「名俳優たちが2時間ピッタシで捕まえ」、場所はもちろん「崖の岩場」という番組。
スタンダードなミステリー作品を味わえる名番組でした。「誰か知り合いでも出てるのか?」ってぐらいウチの母親も毎週真剣に見ていましたね。
まさにそんな火曜サスペンス劇場で放映されそうな王道なストーリー展開のミステリー小説『美濃牛』。
しっかりと面白さが詰め込まれた良作でした。
「美濃牛」感想
まず。
なぜだか全然ハラハラしない。スリルがない。スピード感もない。ヤバさが感じられない。
最後のシーンで犯人による「真実の自白」は人間の汚さ全開で、オドロオドロでヤバい展開だったんですが・・・全部終わった後に明かされたので『そうだったんですか』ぐらいの衝撃。
最後のシーンまではむしろ淡々としすぎて、ミステリー小説にあってほしい要素が見当たらなかった・・・のですが、
なぜだか手が止まらない。
つまりすごく良作だったと思います。
文章も読みやすく、話の展開もタイトルに恥じない牛並みに「ゆっくり」なスピード感だったので、話についていけないということもなかったです。
ただし、700ページもある長編で、さらにゆっくり展開・・・そこに嫌気がさして「本をぶん投げた」という人もいるでしょう。
内容はおもしろいのに、引き込む力が無さすぎて淡々と読み進めていくしかない…そんな小説が苦手な方もいるかもしれませんが、個人的には良かったです。
村を舞台にしたということで、ほのぼの感が小説全体に漂っていたのが良かったですね。
大抵、ミステリー作品で村が舞台になっていると、「タタリじゃー」と喚くバアさんがいたり、「生け贄を捧げろー」と叫ぶバアさんがいたり、「この地に伝わる伝説じゃー」と唱えるバアさんがいたり・・・
今回の舞台である「暮枝村」にはそんなバアさんは登場せず、ほのぼの感満載の雰囲気がかわいかったです。
バアさん出てきて良いことないですからね。
窓音の存在
途中までは「可愛い感じの女の子だなぁ」、と思っていました。
が、最後まで読んで「なんだか普通に怖いな」と感じました。なんででしょう?
家族や親戚が全員死んだにも関わらず、特に戸惑うことなく生活している。もちろんこれも少し恐怖を感じたんですが・・・
やっぱり一番はプロポーズの件ですよね。
だって、男性側はプロポーズしてないですからね。
いや、そりゃ受け入れますよ。田舎にいるカワイイ女子高生で、しかも大金持ちな女の子に『私と結婚してくれますよね?』なんて言われたら『はい』って言いますよ。磯丸水産の店員ぐらいデカい声で『はい!喜んでー!』言いますよ。
でも『結婚しよう』なんて言ってないですからね。
普通の女の子がそんな行動を取ったら『何か訳があるのね』と思うだけですが、ちょっと不思議な少女がそんなこと言い出したら『どんな裏があるの?』ってビビってしまいそうです。
まあそれでも受け入れますけど。
石動戯作
好きです、石動戯作。
やたら物知りすぎて「ウィキペディアか、お前は」と思ってしまうこともありましたが、それでも彼なりの苦手分野もしっかりあって、「特別な人間性」も「普通の人間性」も感じれました。
頭脳明晰なのは言動で分かりましたし、現に作中でも「こいつは頭が良い」と言われていました。でもその頭の良さをひけらかさない感じ。
地元の警察が頼りにしたくなる気持ちもわかります。
今作は石動戯作シリーズの第1作目、ということで。シリーズの次の作品「黒い仏」も読みたくなるキャラクターでした。
嫌いなところ
しかし読んでて嫌いな部分もありました。
『いや、ここ必要あります?』と声を出さずにはいられなかったところです。
各章の冒頭部分
各章の前に毎回ちょっとしたお話が入ってますよね。あれは基本的に「他の著書に登場した【牛】に関する文章」だと思うのですが・・・
あれ、なんですか?
多分、意味はあるのでしょう。わかる人にはわかるのかもしれません。
しかしわからない人にはわからない。途中で吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」の歌詞が出てきた時は、意味わからなすぎて「出版社、間違えて印刷しちゃったのかな」と思いました。
そして冒頭の文章は途中から読むのを止めました。
石動戯作の英語の歌
あれ、いります?
というか石動戯作の音楽の趣味をずっと話してるシーン。あれ、いります?
キャラクターとしての特徴を出すためのワンシーンだとは思いますが、やたら長すぎて全然理解できませんでした。意識が死んでました。
途中、自分が歌ったという英語の歌の歌詞まで出てきてましたからね。
あそこで意識が完全に死にましたから。
石動シリーズを読み進めていけば、きっとあの英語の歌の歌詞も意味を成すんでしょうか…?
今後も石動シリーズを読んでいきたいと思います。そして結局この歌の意味が大してなかったら髭男爵のようにツッコミます。
『意味ないんかーい』
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